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告白

52歳、30年の片思いに終止符。再会した彼は『傷ついた一人の男性』だった。自立した女性が選んだ大人の恋愛

3月の都内。桜の蕾がようやく膨らみ始めた昼下がり、私たちは一軒の静かなカフェで彼女を待っていた。

大きな窓から差し込む陽光はどこまでも柔らかく、通りを行き交う人々の影が、春の訪れを予感させるように軽やかに伸びている。テーブルの上に置かれたコーヒーからは、細く頼りなげな湯気が真っ直ぐに立ち上り、店内の空気は、焙煎された豆の香りと微かなレコードの音に包まれていた。

定刻の数分前、入り口のドアが開いた。現れたのは、グレーの柔らかなカーディガンを羽織り、肩の力がふっと抜けたような佇まいの女性。裕子さん(52歳・仮名)だ。

不動産会社でキャリアを積み、自立した大人の女性としての強さを持ちながら、その瞳の奥には、少女のような繊細さが同居している。きれいに整えられすぎず、けれど清潔感のある彼女の雰囲気は、この穏やかなカフェの景色に自然と溶け込んでいた。

30年という歳月の果てに、彼女が手にした「答え」

聞き手(以下、編):はじめまして。今日はこのような静かな場所でお話しできて光栄です。裕子さん、とても落ち着いた雰囲気で、窓際の光がとてもお似合いですね。

裕子さん:はじめまして。・・・ありがとうございます。なんだか、改めて自分の人生を誰かに話すなんて、少し気恥ずかしい気もしますけれど。ベルベット・イースター +careの「恋愛とケア」というテーマを伺って、今の私なら、恋を失くしていた30年間のことも、少しは誰かの役に立てるようにお話しできるかもしれないと思ったんです。

編:ありがとうございます。今日お話しいただくのは、一人の男性を大学時代から30年間、想い続けた末の再会と、今の生活についてです。

裕子さん:(少し間を置き、窓の外に視線を向ける)ええ。30年。文字にすると長いですよね。人生の半分以上ですから。でも、私にとっては、あの頃のライブハウスの埃っぽい匂いや、彼の奏でていたギターの歪んだ音、そして、言葉にできなかった胸の痛み・・・。それらが全部、今の私を作ってきた、欠かせない一部なんです。

片思いの始まり――ライブハウスの熱気と、不器用な指先

編:恋の始まりは、大学時代に遡ります。同じバイト先だったシュンさん(仮名)という男性に惹かれたのがきっかけだったそうですが、当時はどのような関係だったのでしょうか?

裕子さん:二人とも同じ居酒屋のバイトだったんです。私は昔から、自分から輪の中心に行くようなタイプではなくて、いつも隅っこでジョッキを洗っているような内気な学生でした。シュンさんは、そのバイト先の数年上の先輩で。

編:当時の彼は、どんな印象の方でしたか?

裕子さん:いつも少し眠たげな目をしていて、あまり愛想がいい方ではありませんでしたね(笑)。挨拶しても「あ、お疲れ」くらいで。でも、仕事は黙々とこなす人で、不意に見せる優しさが印象的でした。重いビール瓶のケースを運ぼうとしたら、何も言わずにひょいと持ってくれたり。

編:その彼が、バンドでギターを弾いていたんですね。

裕子さん:はい。ある日、別のバイト仲間に誘われて、学内近くの地下にある小さなライブハウスに彼の演奏を観に行ったんです。狭くて煙たい、独特の熱気がある場所でした。ステージに立った彼は、バイト先の時とはまるで別人でした。楽器を抱えた瞬間に、全身から光が溢れ出すような・・・。激しくギターを弾く指先や、伏せられた長いまつげ。その輝きを目の当たりにした瞬間、「ああ、私はこの人のことが好きだ」って、心の中で何かが弾ける音がしました。

編:告白しようとは思わなかったのですか?

裕子さん:(苦笑いしながら)全然。彼は“追っかけ”の女の子がいるくらい人気だったんです。私なんて、彼にとっては何百人といる観客の一人に過ぎないと思っていましたし、何より自分に自信がなさすぎました。ただ遠くから、彼がステージの上で別人になる瞬間を、盗み見るだけで精一杯で・・・。それが、私の恋の始まりでした。

編:自分で線を引いてしまっていた。

裕子さん:はい。彼が好きだというバンド『ゆらゆら帝国』のCDを買って聴いてみたけれど、全然わからない(笑)。でも、何度も聴いているうちに、彼の想いや、感性に触れられたような気がして、それで満足してしまったんです。今では大好きな、思い出のバンドです。

忘れられなかった年月――仕事に邁進しながらも、心の底に沈んでいた錨

編:大学卒業後、裕子さんは不動産会社に就職されました。環境が大きく変わる中で、シュンさんの存在は少しずつ薄れていったのでしょうか?

裕子さん:それが、全く消えなかったんです。仕事は本当に忙しかったです。契約書の作成や内見の立ち会い、ノルマに追われる日々。私はいつの間にか「仕事ができる女性」として見られるようになって、自分でもそこに居場所を見つけていきました。でも、ふとした瞬間に彼の面影が戻ってくるんです。

編:どのような瞬間に、彼を思い出していたのですか?

裕子さん:夕暮れ時の街を歩いているときとか、ふと耳にしたギターの旋律とか。あるいは、仕事で大きな契約を決めた夜の帰り道に、ふと「ああ、今の自分をシュンさんが見たらなんて言うかな」って。まるで、心の底に重い錨(いかり)を下ろしたまま、必死に別の海へ漕ぎ出そうとしているような感覚でした。

編:新しい恋を探そうとは?

裕子さん:ええ、何度か食事に誘われたり、お付き合いを考えたこともあります。でも、誰と向き合っても、心のどこかで彼と比べてしまっている自分がいて。「シュンさんなら、ここでどんな冗談を言うかな」「シュンさんのあの不器用な声なら、今の私になんて声をかけてくれるだろう」って。相手の方に本当に申し訳なくて、結局自分から引いてしまう。そうして気づけば、20代のほとんどが過ぎ去っていました。

27歳、青白い画面に現れた「既婚」の二文字

編:そして27歳のとき、転機が訪れます。Facebookで彼を見つけたんですね。

裕子さん:はい。あの日、残業を終えて帰宅した夜のことは鮮明に覚えています。部屋の電気もつけず、パソコンの青白い光だけを頼りに、震える指で彼の名前を打ち込みました。検索ボタンを押すまで、数十分はかかったと思います。もし見つかったらどうしよう、もし見つからなかったらどうしよう・・・って。

編:画面に、彼の名前が現れたときは。

裕子さん:(深く息を吐いて)呼吸が止まりました。そこには、少し大人になったけれど、あの頃と同じ眠たげな目をした彼が写っていました。ギターを抱えて笑っている写真。ああ、彼は今も音楽を続けているんだ、今もどこかで生きているんだ。それだけで涙が止まらなくなって。衝動的に「友達申請」を送ってしまいました。それが、長い沈黙を破る最初の一歩でした。

編:申請を送ったあとの一週間、会社を休んでしまったと伺いましたが・・・。

裕子さん:(恥ずかしそうに顔を伏せて)今思うと、本当に情けない話なんですけど・・・。申請を送った瞬間から、日常が完全に狂ってしまいました。メールの通知音が鳴るたびに指先が氷のように冷たくなって、夜も一時間おきに目が覚めてしまう。仕事中もパソコンの画面がシュンさんの顔に見えてきて、集中力が全く持たなくなって。三日目にはもう限界で、会社に「風邪を引いた」と嘘をついて二日間休みました。寝込んでいる間もずっと、スマホの画面を見つめていました。自分がこれほどまでに彼を求めていたという事実に、自分自身が一番驚き、そして怯えていた一週間でした。

既婚を知った失望――私の居場所は、どこにもなかった

編:ようやく承認されたとき、現実は残酷でしたね。

裕子さん:承認されたことで、彼のタイムラインが見られるようになりました。そこで目に入ってきたのは、幸せそうな結婚式の写真や、生まれたばかりのお子さんを抱いて笑う彼の姿でした。

編:プロフィール欄の「既婚」という文字。

裕子さん:はい。その二文字を見た瞬間、全身の血が引いていくような感覚でした。当然のことなんです。卒業から何年も経っているんだから。でも、「ああ、私はこの人の人生の登場人物ですらなかったんだ」って、突き放された気分でした。私の時間はあのライブハウスから一歩も動いていないのに、彼はちゃんと誰かと共に歩み、家族を作り、大人になっていた。当然の現実が、鋭い刃物のように刺さりました。その夜、私はただ泣き疲れて、承認された彼のページをそっと閉じました。

マッチングアプリ時代――「条件」で人を測ることの虚しさ

編:30代に入り、焦りもあったのでしょうか。マッチングアプリに登録された時期があったそうですね。

裕子さん:「このままではいけない、現実を見なきゃ」って、自分に言い聞かせるように登録しました。何人かの男性とお会いもしました。皆さん誠実な方で、スペックも申し分なくて、会話も弾みました。でも、何度会っても、心が動かないんです。

編:何が違ったのでしょうか。

裕子さん:アプリの世界って、「条件」から入るじゃないですか。年収とか、職業とか、身長とか。でも、私が好きになったシュンさんは、そんな条件なんて何一つ関係ない、ただの「彼」だったんです。食事をしながら相手の顔を見ているはずなのに、頭の中ではシュンさんのあの不器用な笑顔を探している。相手の方に失礼なことをしている自分に、だんだん嫌気がさしてきて。結局、数ヶ月でアプリもすべて削除してしまいました。

ひとりで生きる決意――埼玉の家に込めた「覚悟」

編:そして40代。大きな決断をされました。埼玉に中古の一戸建てを購入されたんですね。

裕子さん:「誰かに選ばれるのを待つ人生」を卒業したかったんです。結婚して誰かの家に入る、そんな未来を夢見ることに疲れてしまった。だったら、自分の足で地面に根を張って生きていこうと。不動産会社に勤めていますから、物件選びにはこだわり抜きました。駅から遠くて不便なんですけど、陽当たりがよくて、小さな庭がある静かな家。

編:その家での暮らしは、裕子さんに何をもたらしましたか?

裕子さん:「自立」という名のケアですね。ローンの支払いも、庭の草むしりも、全部自分ひとりで背負う。それは重荷でもありましたが、同時にものすごい自由でもありました。自分で選んだ家具を置き、夜は一人で静かにワインを飲む。その孤独は、寂しいけれど、どこか誇らしいものでした。この家を買ったことで、私はようやく、シュンさんへの執着という名の呪縛から、少しだけ自由になれた気がしたんです。

再会のきっかけ――ストロングゼロと、崩れ落ちた彼の日常

編:平穏な日々の中に、再びシュンさんの影が現れたのは、45歳の頃でしたね。

裕子さん:はい。ふとした拍子に覗いたFacebookでした。そこには、以前の輝かしい彼とは全く違う姿がありました。経営していたBARがコロナ禍の影響で閉店し、さらに離婚して一人暮らしをしていることが、自嘲的な言葉と共に綴られていたんです。

その投稿には、狭いアパートの一室で、昼間からストロングゼロの缶を手にして虚ろな目をしている彼の写真が添えられていました。

編:かつての憧れの面影がない姿を見て、どう思われましたか?

裕子さん:不思議ですね、嫌いになるどころか、「ああ、彼もまた、傷ついているんだ」って、胸が締め付けられるような思いでした。さらに、彼の投稿の位置情報や「窓から見える景色」から、彼のアパートが私の家から自転車で行けるほど近いことがわかったんです。

編:それで、実際に会いに行かれたのですか?

裕子さん:いえ、しばらくは遠くから見守るだけでした。でも、ある夕方、スーパーの惣菜売り場で、半額シールが貼られたパックを手に取っている彼を見つけてしまったんです。白髪が増えて、背中も少し丸くなっていました。でも、その指先だけは、あの頃ライブハウスでギターを弾いていた時と同じ、不器用な動きをしていて。

編:声をかけたのは、裕子さんから?

裕子さん:はい。レジを出たところで、足が勝手に動いていました。「・・・シュンさん?」って。彼は一瞬、誰だかわからないという顔をして私を見つめ、それから「・・・ああ、バイト先の」って。その瞬間、30年の時間が一気に溶けていくような感覚でした。

一緒に暮らすまで――「夕食、食べに来ない?」という勇気

編:再会から、どのように今の生活に繋がっていったのでしょうか。

裕子さん:何度か立ち話をするようになりました。彼は自分を卑下するように「俺はもうダメだ」なんて言っていました。でも、私には彼がただ、ひどく疲れているようにしか見えなかった。だからある日、思い切って言ったんです。「今日、家で多めに夕食作ったから、食べに来ない?」って。

編:それは、裕子さんにとって最大の勇気だったのではないですか。

裕子さん:ええ(笑)。断られたらそれまでだと思いました。でも、彼は少し驚いた顔をして、小さな声で「いいの?」って。私の家で一緒に食事をするようになって。私の作る料理を「おいしい!」と言ってほおばる彼の笑顔。彼は少しずつ、かつての穏やかさを取り戻していきました。私がひとりで守ってきたこの家が、彼の疲れた心を癒やしていくのを感じたんです。

編:そして、ついに一緒に暮らすことに。

裕子さん:「よかったら、ここに住まない? 私ひとりの家だけど、部屋、余ってるし」と伝えた時、彼はしばらく黙っていました。それから、「・・・もしかして俺のこと、好き?」って、照れ隠しみたいに聞かれたんです。私は上ずった声で笑って答えました。「うん、30年ずっと好きだったよ」って。彼は泣きそうな顔をして、「遅すぎるだろ」って。でも、その手はとても温かくて。気づいたら私の頬に涙が一粒伝っていました。

カフェから窓の外を見つめる裕子さんの画像

編集部後記

インタビューを終えた裕子さんは、最後にもう一度、窓の外の柔らかな光に目を細め、「やっと、呼吸ができるようになった気がします」と微笑んだ。

シュンさんは今、裕子さんの紹介で埼玉にあるケバブ屋で清掃や仕込みの手伝いをしつつ再起を図っている。

30年間、一人の男性を想い続けて。それは世間から見れば、非効率で、もしかしたら「重い」執着に見えるかもしれない。しかし、裕子さんの物語を聞いた今、私たちはそれが単なる執着ではなかったことを知っています。

彼女は、彼を想い続けることで自分を律し、仕事に励み、家を買い、自立した。
彼がいてもいなくても生きていける強さを手に入れたからこそ、傷ついた今の彼を、そのまま受け入れることができたのだ。

恋愛は、誰かに幸せにしてもらうためのものではない。自分をケアし、自立した魂を持った者同士が、人生の夕暮れ時にそっと手を繋ぎ合う。

30年の片思いを経て辿り着いた、埼玉の小さな家での暮らし。

そこには、若い頃の熱狂よりもずっと深く、穏やかな「救い」が満ちていた。

(取材・文:ベルベット・イースター +care 編集部)

※お送りいただいたメッセージは、編集部にて大切に拝見いたします。

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